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死ぬための準備 [Papa]

葬式は完全に密葬で。
誰にも知らせないこと。
坊主は信用していないから、
般若心境を心をこめて言えばそれでよし。
あとは焼くだけでいい。
骨は墓に入れずに死ぬまで(奥さんが)持っていてくれ。
そう言って立派な骨壺も自分でセレクト済み。
天皇家に献上されるような立派な陶芸家の作品で
パパらしいセレクト。
それは不死鳥のデザインのものでした。

密葬でということは昔から再三言っていた。
葬式も商売だから、見送るほうの心がこもっていれば
そんな物は何も必要ないから、と言っていた。

もしも自分が急に逝ってしまった場合、
奥さんがどうしていいのかわからなくならないように、
昔から、互助会の連絡先も電話のそばにいつでも見えるように吊るしてあった。

しかし、そもそもパパは葬儀をする予定がなかったから、
最後は、どこの宗派でというのは言い残していない。
一応おじいちゃんが西本願寺だったということで、
とりあえずお経を上げてもらうなら浄土真宗だよね?と、慌ててなったらしい。

戒名を決めるのはお坊さんのお仕事。
本来この名前はいくら、この名前ならいくら、というものである。
しかし、パパは戒名まで自分で決めてあった。
お坊さんにしてみれば、勝手に決められても、
その戒名では葬儀は出来ないと、寸前までもめていた。
しかもパパの書いた戒名は、
お坊さんが亡くなった時に使うランクで
僧侶の学びもない者にその名を使えば、総本山から怒られるとのこと。
「俗名で葬儀は行わさせていただきます。」
と、坊さんは言い切り、その後、困った奥さんは葬儀屋さんと話している。
故人の希望どおりにしたいだけなんですが、どうにかなりませんか?
葬儀屋さんは静かにうなづいていた。

通夜の席も、誰にも知らせていないのだから、
訪れるのは最後まで介護をしてくれていた会社の人たちばかり。
みんなとても心から暖かく見送ってくれた。
手紙を書いて来てくれた人も数人いた。
とてもみんなからも大切にしてもらっていたことも
会話の中で感じ取れた。
私たち姉妹の全く知らない3年間がそこにあり、
それを聞くのは、とても気まずい時間だった。
この親切な心優しい人たちにさえ、
「病気の親を見捨てた鬼のような娘達」と責められているような気がした。
それでも私たちは、お礼を言い続け、
頭を下げ続けるだけで、いい訳の一つも出来なかった。

お経が始まると、初めて聞くリズムに
思わず私は吹き出しそうになった。
パパの顔が目に浮かぶ。

もうちょっと上手に歌える人いないの?
ちょっとこの音痴やめさせてくれない?

そんなことをパパなら言い出しかねない。
そんな調子の、私も初めて聞くお経だった。

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いつもありがとうございます。

準備万端で亡くなったはずのパパも、
密葬のはずが、祭壇まで予定外に作られてしまい、
坊さんまで来てしまって、慌てたことだろうと思う。
「バカ!おっちょこちょい!」と笑っている気がした。


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