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神の子羊 [Papa]

葬儀の間中も、それ以外の時間も
ずっとクラッシックが流れていた。

私は昨日握りしめたままになっていた
お別れのメッセージをホテルに持ち帰って書いた。
すでに何を書いたのかも忘れてしまった。
心の中でたくさんの会話をしたから、もうどうでもいいことしか
書くことも残っていなかったのだと思う。
着いてからも葬儀開始間際に、
まだ数枚のカードが残っていたから、
私と妹は子供達の分や、弟の分のメッセージを書いた。

不思議なリズムのお経が終わり、
またクラッシックが流れていた。
お花を棺に入れる時、奥さんが言った。

顔の周りは二人でしてあげてね。
もう私は十分したから。

祭壇からお花を取り分けて葬儀屋さんのお手伝いの女性が手渡してくれる。
菊の花は嫌いだったから全部足下に。
顔の周りは大好きな百合の花、カサブランカで埋め尽くした。
送られていた百合の花も大きく開いたものは、
全部入れて、顔以外何も見えなくなった。

そろそろお別れのお時間です。
恐れ入りますが、ふたをさせていただきます。

そう葬儀屋さんの声がかかった時、
CDが勝手に次の曲に移った。
それまで同じ曲をエンドレスにかけていたらしい。
ヘンデルのラルゴ。
それが次の曲に勝手に移って「あああああああああああ」となり
みんなが慌ててCDを直そうとそちらに向き直った。
私はパパの仕業だと思い、
最後心残りのないように、パパに触れた。
とても冷たくつるつるとしていた。


パパが死んでも、きっと怖いからもう触れないと思うよ。

と、ずっと昔、パパに向かって私は言った。

じゃあ、死んでも化けてでないようにするね。

とパパは答えた。

でもそれじゃあ寂しいから、パパ来てください。ってお願いしたら
その時には出て来てもいいからね。

と言ったら、パパは、

じゃあそうするまで出ないね。

と笑っていた。

そんな話を思い出していた。

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いつもありがとうございます。

ラルゴは、
通常は女性やカストラートが歌う曲らしいが、
このCDでもテノールの男性が歌っていた。
後から奥さんから聞いたのは、
パパがこの歌が特に好きだったのは、
ミラノ座でこの曲でデビューをして喝采を受けたからだったそうだ。
しかし、何より私が笑ってしまったのは、
その次の「ああああああ」となってしまった曲のタイトルを見た時だった。
その曲のタイトルが「神の子羊」だったから。
「パパは迷える神の子羊なんかじゃない」とでも言いたかったのか、
それとも神の子羊として、神の元に帰るといいたかったのか。
宇宙のいたずらなのか、パパのいたずらなのかわからないけど、
やっぱり最後まで笑わしてくれるなと思ったんだ。


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